![]() |
シナリオ一覧に戻る |
262610朝[ナマケモノ] |
[背景:ブラックアウト] 自分が自分でないような、何処か遠くに行ってしまったんじゃないだろうか? 本当に此処にいるのだろうか? 自分が世界で独りだけになってしまったんじゃないか? "そんなくだらない事"を確認する為に。 [背景:自室 朝] ゆっくりと瞼を開けて、自分の手を目の前に持ってくる。 そこにしっかりと存在する手を見て、ふと安心する。 ……あれ、なにか夢を見ていた気がしたんだが。 どんな夢だったっけな……。 …………ま、いいか。そんなに重要な事じゃないだろう。 再び眠りにつこうとするが、じっとりと肌にまとわり付くシャツの感触に嫌悪感を抱く。 すぐさま嫌悪感から逃げるようにして、シャツを床に脱ぎ捨てる。 ……コツン、コツン。 夢の続きの様な暗い部屋。 その部屋の中で小さな音が響く。 コツン、コツン。 ??? 「うぅ〜……へんじがない〜……」 ……。 ??? 「……むぅ……まだ一矢君起きてないのかなぁ?」 ??? 「……もうちょっとだけ大きいのを投げてみよっかな」 カーテンの向こう側。 締め切った窓の向こうから聞こえてくる声は、まるで名案を思いついたかのように明るい。 ゴツン! ゴツン! 音がさっきよりも重量感を帯びている。 というか、ミシミシとかいう嫌な音まで聞こえ始める。 ゴツン! ゴツン! ??? 「あれぇ……まだ起きない?」 ??? 「んー……そうだ! もっと大きいのを投げてみよう」 声はそんな物騒な事を言っている。 やばい、これ以上やられたらしまいには窓が割れてしまう。 いや、割るまで止めないだろう。 イライラしていたせいか、勢いよくカーテンを開ける。 窓も勢いに任せて開ける。 [イベントCG:一矢宅の庭でバスケットボールをいまにもフリースローのように投げようとする慌てた顔の七心] バン! と壊れそうな音がした。 一矢 「おい、いい加減にしろよ!」 ??? 「わっ、わわっ!?」 そこに居た人間は驚いた顔でこちら見る。 ……その両手にはなんとバスケットボールがあった。 どこから持ってきたのか、そしてそれをどうするのか。 いや、そんな質問をしても意味がないだろう。 [背景:自室から見た一矢家庭] とりあえず、そんなモノで窓を"攻撃"されたら我が家の窓なんて、下手をすると壊れてしまう。 ……よくみるとヒビが入っている気がする。 きっと気のせいだ、そうに違いない。 ヒビなんか入ってない……。 よし。 俺はその記憶を可能な限り忘れることにした。 一矢 「ったく……1階なんだからインターフォン押すとか考えないわけ?」 ??? 「わわ……そこまで怒ると思わなくて……」 ジッと睨む。 ??? 「う、ごめんなさい……」 一矢 「大体携帯の番号も教えてあるだろうが……」 不審人物の正体は俺の幼なじみである谷及 七心[ルビ:たんぎょ なみ]だ。 小学校も一緒、中学も一緒、おまけに高校まで一緒ときてる。 ついでに俺とコイツの家は隣にあり、部屋は窓向かいでもありお互い片親でなにかと共通点が多い。 俺が物心をついたときにはすでに七心が俺の後ろをついてきていた。 まるで、本当の兄妹みたいだと良くお互いの両親に言われたもんだ。 が、正直俺にとっては迷惑以外の何者でもなかった。 いや、迷惑というか……七心の"体質"的に迷惑以外訪れないというか……。 それに……、あの時から七心のことは突き放していたし……。 一矢 「はぁ……。んで? 今日はなんだよ?」 半ば呆れながら、ぶっきらぼうに告げる。 七心 「えっと……その、今日はその……」 七心 「あ、あの……その……」 妙に七心の顔が赤く染まっているように見える。 ついでにモジモジし始める。 一矢 「……なんだよ、気色悪い」 七心は決心したのか、顔を真っ赤にして口を開く。 七心 「そのっ……服……できれば着て、欲しいな……?」 言われて気づいた。 上半身裸だ。 そういえばさっき着ていたシャツは脱ぎ捨てたんだった。 部屋に干してあるシャツを手に取り着る。 一矢 「これでいいか?」 七心 「う、うん……ごめんね」 なにを照れているのかは良くわからないが、とにかく良いらしい。 流石にデリカシーが無かったか、と思うがこの幼馴染にそんな気遣いは無用だろう。 一矢 「それで? 今日はなんの用だよ」 俺の一言にあ、そうだ。とばかりに手を打って笑顔でしゃべる。 七心 「一緒に学校いこ?」 一矢 「……はぁ? お前、そんな事言うためだけに窓割ろうとしてたのか?」 とてつもなく素っ頓狂な声が出る。 自分でもこんな素っ頓狂な声が出るとは思わなかった。 そういえば――……。 顔に似合わず、"常人なら考えもしない事"をしようとするのが"コイツ"だったと今更ながら思い出す。 七心 「えと、だって……最近、一矢くん学校遅刻ばかりだから……その……」 七心 「そ、それに……窓、割ろうとしてないよ? 呼んでも起きないから……えっと」 七心 「…………正当防衛?」 一矢 「違う。色々と違う」 流石に呆れる。呆れを通り越して笑えてくる。 頼むから、割る割らない以前の問題だって事に気づいてくれないか……。 七心 「とにかくっ、だから一緒に行こ?」 少し考えてみる。数秒考えた後に答える。 一矢 「断る」 短くそう告げて、窓を閉めようとする。 こんな朝から不幸まみれになるのはゴメンだ。 すると、目の前の七心がポツリ。 七心 「わたしと、一緒に行くのは嫌……?」 ポツリと、まさにこの言葉がピッタリ合うようなつぶやきで。 伏し目がちに、七心は俺に言った。 一矢 「っ……」 コイツのこういう所に俺はいままで勝てたことがない。 もう、仕方ねぇよな。 一矢 「……かたねぇな――」 思わず口にしてしまった。少し反省。 七心 「えっ?」 瞬間、七心はじけるような笑顔を俺に向ける。 一矢 「ちょっと待ってろ」 七心 「うんっ」 部屋の窓を閉め、制服にすばやく着替え始める。 [背景:自室 朝] シュル――。 こうやって制服の袖に手を通す度に思う。 "なにか面白い事が起きればいいのに" "退屈なんか、無くなってしまえばいいのに" そんな風にいつもいつも、感じている。 この思いは晴れる日が来るのだろうか。 きっと、それは叶わない。 この世界で"普通"を続ける限りは、絶対に。 [背景:一矢家前] 手早く着替え、学校指定の鞄を手に持ち家を出る。 一矢 「待たせたな」 七心 「大丈夫、全然待ってないよ」 家の目の前には予想通り七心が待っている。 七心 「えっと、髪の毛ボサボサだよ?」 人の髪を指差しながら言う。失礼な。 一矢 「うっせーな、良いんだよ」 七心 「えっと、でも……赤いシャツとか校則違反だし……」 一矢 「……あんまりウダウダ言うと帰るぞ?」 七心 「一矢君の家うしろ……」 一矢 「うっせぇ」 七心 「わわっ……ご、ごめんなさい」 七心 「えっと、そのままでいいから行こっ?」 その一言を受けると同時に学校へと歩き始める。 七心 「わわ……待って欲しいな」 [背景:通学路1] 七心がとたとた駆け寄ってきて横に並んで歩く。 朝起きて、学校に向かう。そして授業が一通り終われば家に帰る。 毎日、同じ事を繰り返している俺は"なにか面白い事"が起きれば良いのに……なんて事を望む。 きっと誰しもそうだろう。 同じように朝起きて、目的地に向かう人々。 そんな人々を見て"なにが楽しいのだろう?"と思う。 きっとそれは、限りなく普通の事であって、誰もが一度は考える事。 こんな"つまらない日常"から俺一人が消えたところで、俺以外の人間はそんなことを気に止めたりはしない。 この隣にいる七心だって同じだ。 もし、こんな"つまらない日常"を覆すような事が起こったら。 ――もしも、起こったのならきっと。 きっと、きっと毎日楽しいに違いない。 [背景:校門] 考え込んでいるうちに、見覚えのある校舎にたどり着く。 校舎の前にはもう俺たちしかいなかった。 [背景:下駄箱] 上靴に履き替えるために靴箱でいったん七心と分かれる。 このまま黙って帰ってしまおうか……。 ……いや、後で七心にさんざんこの事についてくどくど言われるのが目に見えている。 おとなしく上靴に履き替えよう……。 七心 「はぁ……チャイムが鳴る前になんとか行けるね」 上靴に履き替えた七心がこっちに戻ってくる。 一矢 「でもないな」 玄関にある時計を指差す。 長針が今まさに真下を指すところだった。 七心 「あ、あわわわ……」 隣の七心は目を点に、口をパクパクさせながら立ち尽くす。 七心 「ち、ちこく!?」 一矢 「だな」 俺はもうチャイム前に教室に入るのを諦め、ゆっくり歩こうとする。 と、突然七心に手を握られる。 七心 「走るよ!一矢君っ!」 一矢 「うおっ!」 七心が賢明にダッシュをし、俺も手を引っ張られながら走らされる。 [背景:階段] 生徒玄関から階段へとたどり着く。 一矢 「はぁ、ちょっと待て……」 膝に手を置いて、大きく深呼吸をしようとする。 七心 「いくよ!」 が、深呼吸をする前に七心に腕を捕まれる。 ふっと景色が流れる、身体が引っ張られる。 と思った瞬間にある感覚が襲い掛かる。 それは、痛覚。 ゴツンッ!!!! なにが起きたのか、理解するのに数コンマかかった。 どうやら、階段に足を引っ掛けて転んだらしい。 痛い、弁慶の泣き所を中心にに全身が。 一矢 「痛ぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」 絶叫。弁慶は痛い。 七心 「あっ、ごめ……」 その一言と同時に左手を七心は離す。 たったひとつの支えを失った俺の身体は宙を舞った後、階段を駆け下りる。 ゴツン! ゴツン!! ゴツン!!! 一矢 「ッ――!?」 一番下までたどり着く。 背中を激しく打ちつけたのだろう、息が出来ない。そして全身が痛い。 一矢 「七心、テメェ――」 言葉を最後まで発言することが出来ない。 マトモな呼吸もまだ出来ない。 七心 「ごごごごごごごごごめんなさいぃぃぃぃ!!」 一矢 (結局不幸まみれかよ……) 全身の痛みに耐えながらも立ち上がる。 呼吸もなんとか出来るようになった。 一矢 「ほら、行くぞ。肩貸せ」 七心 「う、うん……」 さっきの出来事は仕方ない、事故だ。 そう自分に言い聞かせて階段を上る。 |