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172210朝[air]
[背景:ブラックアウト]
???
「――……くん……一矢くん」
だれかに揺さぶられ、目を開ける。
[背景:自室 朝]
見慣れた天井。少し暗い部屋。
???
「もうっ、もうすぐ昼だよ?」
声がした方を見ると七心がいた。
体を起こし、頭をボリボリとかく。
あ、これはひどい寝癖だ。
一矢
「っていうかなんでいるの?」
七心に問いかける。
夏休みで起こす理由などないはずだ。
こんな朝早くから起こされる身にもなって見ろ……。
七心
「一矢くん私が見ていなくちゃ絶対健康に悪い生活するでしょ?」
七心
「だから起こしにきたの」
…………。
一矢
「……だけ?」
七心
「うん。それだけ」
一矢
「ほかの理由は?」
七心
「ない……けど?」
…………。
ばさっ。
七心
「ってちょっと! 二度寝しちゃだめだよ!」
かぶっていた布団をはぎ取られる。
……っていうか、なんだその理由。
別に昼間で寝てても死なねえっつうの。
七心
「ほら! 起きてよ一矢くん!」
ゆさゆさと体を揺らされる。
おまえは母親かっ!
七心
「ほら、外もこんなに明るいんだよ!」
といってカーテンを開ける
暗かった空間がいきなり明るくなる。
とてつもなくまぶしい。
一矢
「閉めろ……」
その光はどうやら俺を蝕むようだ。
頭を手で覆い、目に光が届かないようにする。
七心
「ひゃっ!!」
突然七心が大きな声を上げる。
一矢
「うっせえな……」
七心
「ああああれあれあれ!」
七心が俺をばしばしと叩く。
仕方がないので体を起こす。
七心は俺を叩きながらずっと別の手で窓の外をさしている。
俺はのそのそと窓へと歩く。

……。
見慣れた俺の家の庭
そして七心の家の壁が見える。
と、庭にいつもはないなにかがある。
そのなにかはばさばさと翼を羽ばたけながら地面でのたうち回っている。
姿はどう見ても鳥だ。
窓を開けて目をこらして見る
……顔を見る限り、フクロウだな。
一矢
「七心」
七心
「ひゃいっ!」
ベッドのそばでびくびく震えている七心を呼ぶ。
一矢
「このフクロウ、なんていうフクロウかわかるか?」
七心がおどおどと窓のそばまで寄ってくる。
俺のシャツを掴みながらおずおずと窓の外を見る。
七心
「フクロウ……だね」
一矢
「うん、だから種類は?」
七心がほおづえをつく。
七心
「う〜ん、たぶんコノハズク……じゃないかなぁ」
コノハズク?
あ〜……なんかこの前動画で見たことがある。
日本にもいるんだな、こんなやつ。
一矢
「お前、このフクロウ飼ってる?」
七心
「ううん、私の家では飼ってないよ」
となると、どこか別の家の奴か、それとも野良か……。
コノハズクをじっと見る。
すると足になにか紐みたいなのが絡んでるのが見える。
あれが絡まってるからじたばたしてるんだな?
しかたない、とってやるか。
[背景:一矢宅庭]
玄関から庭へ回る。
コノハズクはおとなしくしているようだ。
この隙にとってしまおう。
……。
…………よし!
コノハズクの足が解放される。
これで飛べるだろ。
[ウェイト:1秒]
「まうるる」
……ん?
一矢
「七心。お前今なんか言ったか?」
七心
「え? なにも言って無いけど…」
そうか?なにか聞こえた気がしたんだが。
そんなことを考えてる瞬間だった。
コノハズクが大きく羽を広げ、飛んでいった。
はぁ……一安心、だな。
一矢
「七心、動物虐待はダメだぞ」
七心に絡まっていた紐を見せる。
七心
「わわわ私じゃないよぉ!!」
[背景:一矢家玄関]
玄関の方へと回る。
とっとと顔を洗ってくつろぐとするか。
[SE:扉の開く音&キィンという効果音]
……ん?
なにか鍵でも落としたかのような音がした。
辺りを見回すがなにも落ちた形跡はない。
気のせいか?
今日はやたら変なことが起きるな。寝ぼけてるのか?
あ〜……早く顔洗お……。

[背景:リビング]
七心「一矢くん」
一矢「あー?」
顔を洗い終えた俺のそばに七心が近づいてくる。
七心「お昼ご飯をつくってあげようと思ってたけど、冷蔵庫になにもなくて……」
一矢「……んなもんカップラーメンでいいよ」
七心「だめだよ! ちゃんと栄養がつくもの食べなくちゃ!」
どうでもいいよそんなの。
七心「それで、これ買ってきてほしいんだけど」
七心が小さなメモを渡す。
一矢「そこらへんで食べてくるよ」
七心「ぜっったいだめ!」
……
……こいつこんなに押しが強かったっけ?
七心「私はほかのものをなんとか作っておくから」
一矢「わあったよ、買ってきたらいいんだろ、買ってきたら」
七心から少しのお金をもらって家を出る。
今日は厄日だ……。
なんでこんな苦労をせにゃならん……。

[背景:通学路2]
暑い。
スーパーの中はクーラーが効いてて涼しいのに、外に出たらこの暑さだ。
さらに夏の昼前は地面がしっかり熱されて暑さが増している。
はっはっは。こりゃ熱中症の奴もでるってもんだ。
……っと、すこしくらくらしてきた。
ジュースでも買って飲んだらよかったかな。
ちかくに自販機もないし、いち早く帰るしかない。
すこし買った物が重いが、急いで帰ろう。
[背景:通学路1]
はぁ……。
ようやく家の近くまで帰ってきた。
近くのスーパーまでは10分とかからない距離なのに、今日は異様に長く感じる。
あれだ。暇な時間にぼーっとしてると時間の流れが遅く感じるだろ?あんな感じだ。
というか、なんか異様に汗をかいている。
ははは、これが脱水症状か?
だからこんなに意識がもうろうとして、時間の流れが遅く感じるのか。
とくに腹の部分がもう服まで汗びっしょりに濡れて……。
[イベントCG:真っ赤な血で染まる手]
……え?
服をさわると手が真っ赤に染まる。
…………え?
……なんだこれ…………。
ドクンと心臓の音が聞こえる。
そして自然と膝をつき、その場に倒れる。
なんだ?体が動かねえ……。
あれだ、長い距離を全力疾走したあとに倒れる感じ。
それと背中になにか違和感を感じる。
そんなことを考えているとき、ズボンの後ろのポケットに入れてある財布が抜き取られる感覚を得る。
[背景:通学路2 ぼやけている]
通り魔
「ちっ……しけてやがんな……」
そんなことを誰かが俺の側で漏らす。
そうか……俺刺されてるのか。
全身から力が抜けて立ち上がることもできねえ……。
財布を取り返すことも出来ないとはな。
と、通り魔らしき男は俺から去っていくのが見える。
こりゃ、あとで七心に怒られるか……。
……あ〜やばい、目がかすんできた。
地面と建物の区別がつかなくなってきやがった……。

…………。

七心
「い、一矢君!!!」
七心の声が聴こえる。
一矢
「わ……わりぃな七心……財布盗まれ……ちまった…………」
七心
「しゃべっちゃだめ! 一矢君!」
意識が薄らいでいく。
七心
「い……くん!! …………つや……」
七心が必死に俺に語りかけてきてるが……もうなにを言ってるのかわからない。
ゆさゆさと体を揺らされるが、その感覚もなくなってくる。
そして。
俺は目を閉じた。



[背景:ブラックアウト]
……。
ここはどこだ。
なにも見えない。
黒……。
真っ黒……。
真っ暗闇の世界。
この空間はなんだろう。
空間と俺の境界がわからない。
地面に立ってるのか、それとも浮いてるのかもわからない。
俺一人しかいないのか。
???
「本当にすまない」
!?
なんだ今の声は。
俺の他に誰かいるのか?
だが、どっちの方角からどの距離でだれが喋ってるのかさえわからない。
くそ、俺以外の奴、いるんだろ?何処だよ。
???
「今からお前を…………」
なにいってんだ?
よく聞こえない。
辺りをキョロキョロ見回し、ぶんぶんと手を振ろうとするが、出来ているのかさえ確認できない。
体全ての感覚がないみたいだ。
と、突然目の前が光り輝き出す。
そして、あっというまに俺はその光に包まれた。