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172140屋上[air]
[背景:ホワイトアウト]
未来は常に一つしか選べない。
しかし、その数は無限である。
そういう話を昔、本で読んだことがあった。
未来は木の枝のようにたくさんある。
そして、その枝達は二度と一つにはならない。
例えば、ある場所に『自転車で行くか』『歩いて行くか』で未来は変わる。
もちろん、結果としては着いた場所は同じだ。
だが、自転車で行ったときと、歩いて行ったときでは歩いた方が疲れだろうし、時間もかかるだろう。
でも、歩いたときはいろんな景色をじっくりと見ることができる。
それはまったく違う事だ。
そんなたくさん存在するはずの未来から、たった一つだけ選ぶというのは、なんとつまらない事だろう。
未来をいくつも見れる事が出来るならば、きっと楽しい事だろう。
もちろん、つらくて苦しい事もあるかもしれない。
最悪、意識不明に陥る事もあるかもしれない。
だが、未来を一つだけしか選ぶことのできない俺にとっては、たくさん未来を見れる生き方はとても羨ましい。
そんなことを、俺はこの数年間ずっと思いながら生きてきた。
この先も達成できないその思いを抱えながら生きていくんだろう。
はぁ…………。

[背景:ブラックアウト]
[SE:ミンミンゼミ]
蝉の音が聞こえる。
ここは校舎の屋上だ。
こんな高いところまで聞こえるくらい大きな声で鳴いている。
種の存続のために。
ごくろうなことだ……。
???
「―――……矢君……」
蝉の音の中に小さな音が混じり込む。
そんな声を、俺は無視した。
はぁ……、退屈だ。
???
「一矢君……」
その声は確かに俺の名前を語っている。
どうやら俺を呼んでいるらしい。
俺は目を開ける。

[背景:空]
そこには夏を象徴する入道雲が見えた。
太陽の日差しから避けるために、ベンチを屋上の日陰に持ってきているため、少し暗い。
その視界の中にひとり、おどおどした顔のやつが入ってくる。

[イベントCG:七心が見下ろしている感じ その後ろには青空が広がっている]
[BGM:七心]
七心
「やっと起きた」
そいつは俺の幼なじみの谷及 七心[ルビ:たんぎょ なみ]だった。
俺の名前を呼びながら、俺の顔をのぞき込んでいる。
そこは邪魔だ、俺はあの綺麗な青空を見ていたいんだ。
七心
「もぉ、教室にいないから探したんだよ?」
どうやら七心はずっと俺のことを探していたらしい。
七心
「でも、途中で帰ってなくて良かった」
七心の表情がすこし安らいだ。
俺は体を起こす。

[SE:ぶつかる音]
七心
「いたっ!」
俺の頭が七心の顔にぶつかる。
急に起き上がったせいで七心が避けきれなかったみたいだ。

[背景:屋上]
[キャラクタCG:七心]
七心「ったたた……」
が頭を抑えながら離れる。
一矢
「あーわるい、ぶつけちまった」
七心
「もぉ、いきなり起きないでよぉ……」
一矢
「わるいって……」
七心とぶつかったところを掻きながら自分の腕時計を見る。
――9時45分。
おれは1時間ちょいしか寝てないらしい。
もう校舎内の大掃除は終わった時間だろうか。

[SE:ガサゴソ]
[背景:ブラックアウト]
体を倒しもう一眠りする。

[背景:屋上]
[キャラクタCG:七心]
七心
「ちょ、ちょっと! 起きて〜一矢君!!」
七心が俺の肩を持ってゆさゆさと左右に揺らす。
一矢
「なんだよ……眠いんだよ俺は……」
七心
「学校は寝る所じゃないよ! 勉強する所なんだよ!」
一矢
「俺が悪いんじゃない、この屋上の影の涼しさと寝るのに最適なベンチが悪い」
日が差して風があまり入ってこない暑苦しい教室には居られない。
七心
「でも最終的に寝るのを決めるのは一矢君だよ?」
ぐっ……。
七心に核心を突かれる。
しかたないな……。
俺は体をまた起こす。
七心
「もうすぐ終業式が始まるから、そろそろ教室戻らないといけないよ?」
あー終業式か……。
あの体育館は風が入ってこないから暑いんだよなぁ……。
一矢
「終業式なんて、校歌歌って校長の長い話聞いて終わりだろ?」
あとは生徒指導のセンコーが夏休みの過ごし方についてしゃべるくらいだ。
はっきりいって、どうでもいい。
七心
「だめだよ、一学期最後の終業式なんだから」
最後もクソもねえっつうの……。
七心
「起きないのなら寝てる一矢君のこと、ここでずーっと見てるからねっ!」
そういって、七心はじっと俺の顔を正面から見る。
やめてくれ……。
しかたがないので俺は立ち上がる。
そして階段を下りようとする。
七心
「あ、ベンチこのままで良いのかな……?」
一矢
「いいだろそんなもん」
七心
「いいのかな? ほんとに……」
階段をさっさと下りる。
七心
「あ、待って!」

[背景:ブラックアウト]